ANHルーク・スカイウォーカー ライトセイバーのグリップに関して |
2003/02/27 by ぴろいし |
(写真と本文は関係ありません) |
ANHおよびESBルーク、そして全てのベイダーセイバーに使用されているT字型の黒いグリップ。2002年末までは、これはイギリスの古い車、ローバー・ミニ(この時代だと正しくはモーリス・ミニあるいはオースティン・ミニ。ローバーになったのは1986年以降だが、RPFではローバーとして話が通っていた)のワイパーだというのが定説だった。
私がセイバーに本格的に興味を持つようになったのは1999年夏のことで、この時既にこの説は定着していた。新参者だった私は、そんな細かいパーツの素性にまで興味を抱く余裕は無く、また興味を抱いたとしても、その真偽や話の出所を完全に確認するためにRPFへ書き込むほどの英語力も情熱もなかった。
思えば、現在のようにセイバーのディテールに関して病的なまでにこだわる人々が多く出てきたのは、そんなに昔の事ではない。おそらく、1995年に日本の竹書房から刊行された「STARWARS
CHRONICLE」が発端なのだ。当時現存したあらゆるプロップの写真を網羅したこの豪華本の出現は、世の中のSWフリーク達に、プロップの素性を探り研究するという新たな趣味に没入する機会を与えた。
そして1996年のICONS社によるライトセイバーレプリカの発売、1997年のSW特別編の公開がそれに拍車をかけたのだろう。
とはいうものの、セイバーのディテールを探るには現在でもあまりに材料が乏しいのはご存じの通りだ。ほとんどのプロップは失われており、新たなスチール写真が発掘される可能性は少ない。結局マニア達は、PCによる解析、3DCGの導入など、その手法を進化させることでのみ新たな真実を発見していった。その過程でさまざまな誤った定説が生まれたのは仕方がないことと言える。ANHオビ=ワンなどは、複数のパーツによって作られており、いまだにエミッターとギア状部品の素性はわかっていない。現在グレネードだと確定した部分も、オートバイのグリップだという説が定着していたこともあるくらいだ。
この「ワイパーブレード説」もそういった証拠のない噂の一つだった。
この噂がゆらいだのは、2002年11月末の一人の人間の書き込みによる。
彼の名前はMK。そのスレッドは「My 22 year old Graflex lightsabre」という名前で始まった。
最初の書き込みには一枚の写真と「これは1980年に作りました」という文章が添えられていた。その写真のANHルークは、紛れもなく本物のグラフレックスが使用されており、きっちりT状モールドのグリップが貼り付けられていた。どうしてそんな昔にANHルークのことを知り、制作することが出来たのか。グリップはどうやって作ったのか。その書き込みに色めき立った人々が次々と疑問を投げかけた。彼は少しずつ語り始めた……。
(以後、セイバーと関係ない思い出話も混ざっているが、せっかく当時の雰囲気があるので全部訳します)
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1978年、当時MK氏は18歳でセブンイレブンで働いている子供だった。彼はハリウッドの映画館でANHを見たが、彼の住んでいたカリフォルニアのバーバンクでは$2.50で映画が見られるのに、そこでは$4.00もふんだくられたこともあって、さして感銘は受けなかった。「未知との遭遇」の方がいいと思った。
1980年になり、ESBが公開されたが、「続編だと?ジョーズ2がおもしろかったか?けっ!」ということで、彼は興味を持たなかった。
しかし数週間後、誰もがESBはすばらしい!と褒めそやすので、彼は見に行った。
で、彼は大変な衝撃を受けてしまった。おもしろすぎる!ANHはカウボーイとインディアンが宇宙で戦っているだけだったが、ESBはオリジナリティが増しており、なにしろライトセイバーの戦いがすごい。ANHのベイダーとオビ=ワンのそれはちまちました小競り合いだったが、ESBではダイナミックになっていた。
MK氏は2ヶ月間に18回もESBを見に通い、最後の数回はライトセイバーだけを見るために映画館に行った。そして、ライトセイバーが、映画のためにでっちあげられたものではなく、なにか実在の物を元にしていると確信した。車のショックアブソーバーか?歯科医師の道具か?彼にはわからなかった。
彼は父親と議論した。彼の父は「ありゃ単に小道具係が旋盤で作ったもんだろう?」と言った。納得いかない彼は、絶対に探し当ててやると決心した。
彼は、映画関係の書籍が揃うハリウッドの本屋に出かけた。あらゆる本屋を巡ったが、なかなか手がかりは見つからなかった。スターログの別冊(おそらく)にたどり着くまでに長い時間を費やし、ルークのセイバーが「Graflex
Flashgun」と呼ばれる何かであることを知った。
そんなとき彼は、ある本屋の店員から「昔ルーカスフィルムで働いていたって言ってる奴を知ってるぜ」と言われる。「その男は今は本屋で働いているんだ」と。目の前の男は全くおかしな奴で、「ルーカスに東洋の宗教について教えたのは俺だ」とか様々な信じられないような話をペラペラとしゃべり始めた。彼は話を合わせるのに必死で、しまいには「俺たちにはフォースがある!他の奴らはみんなクレージーだ」とかわけのわからないことを言う羽目になった。
ともかく、彼はいくつかの興味深い話を聞き出すことが出来た。最初、セイバーの特撮はロトスコープではなかったこと。セイバーの底にプロジェクターのモーターを仕込み、反射テープを貼ったプレキシグラスの棒を回転させたこと。電源のコードは俳優の袖を通っていたこと。ライトを反射テープに当てると棒は明るく輝いたのだが、棒同士が打ち合わされると、回転スピードが落ちるために仕掛けがバレてしまったこと。
彼は、この男は精神病院か刑務所のどちらかにいたに違いないと疑っていたのだが、最後の話は本当だと思った。とにかく、彼はGraflex
Flashgunとは、古い4X5カメラに使われていたものだと教えてくれた。
そして、彼はカメラショップと、写真が趣味の人間に電話をかけ始めた。「スターウォーズに使われたフラッシュガンを探してるって!?」と笑われた。実はマニア達は既にグラフレックスのことについて掴んでおり、彼は後れを取っていたのだ。カメラショップの店員は、「ルーカスフィルムの人間がグラフレックスを探して電話をかけてきたよ」と教えてくれた。彼はグラフレックスを見つけるまで根気よく電話をかけ続け、やっとのことでダウンタウンのあるカメラ屋でそれを見つけた。彼の父親は間違っており、彼は正しかったのだ。
グラフレックスは手に入れた。だが他のパーツは?グリップは何でできてるんだ?ワイパーのブレードに似てるけど……そうだな、ゴムはいいグリップになるだろう。彼は大きな車のパーツ屋を巡ったが、合う物は見つけられなかった。彼はもっと詳しい情報を手に入れるために、ルーカスフィルムの誰かと話をする必要があると考えた。
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彼は電話帳を探したが、ルーカスフィルムの番号はある物の、住所はわからなかった。彼は公には書けない方法を使って、ノースハリウッドのユニバーサルスタジオの向かいにあるLankershiemビルにルーカスフィルムのオフィスがあることを突き止めた。彼は車ではるばる出かけたが、ILMは引っ越ししており、何の収穫もなかった。
MK氏は次に、ILMに電話することにした(ぴろいしツッコミ:順番が逆だろうアンタ……)。もちろんジョージ・ルーカスやデニス・ムーランと話が出来るわけもなく、受付に阻止された。そこで、彼は、ある映画制作技師の著書で見つけた、ジョー・ブロウ(Joe
Blow)の名前を出してみることにした。ジョー・ブロウはR2D2などを手がけたステージテクニシャンだった。なんと、数分後、本人が電話口に出た。MK氏が、ルークのライトセイバーを作ろうとしていること、グラフレックス以外のパーツの素性がわからないことを告げると、ジョーは「俺の名前をどこで知ったんだ?」と聞いてきた。その本の名前を告げると、「本当か?どこの出版社だ?どんな表紙?」と言ってきた。この出来事が、会話にいいムードを作ってくれた。ジョーはいくつかの大変価値のある情報をMK氏に教えてくれた。ジョーはブルースクリーン合成で使うラフなセイバーを何本か作った。実際にはフラッシュライトか何かを使っただけだ。セイバーを使った全ての撮影はイギリスにあるEMI
Elstreeスタジオで行われた。そこのプロップマスターであるフランク・ブルトン(Frank
Bruton)に話を聞くとわかるだろう、と。
彼はその夜早めに寝ることにした。目覚まし時計をイギリスとの時差を考えて夜中にセットして。スタジオの受付は、おそらく「ヤンキーのスターウォーズ小僧が電話をかけて来やがった」と取り合ってくれないだろう。なかなか寝付けなかった。
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目覚まし時計のベルと共に彼は跳ね起き、エルストリー・スタジオへダイヤルした。ブリティッシュ・トーンの英語が受話器から聞こえてきた。こちらはEMI・エルストリー・スタジオです、と。彼は「私はアメリカからかけています。プロップ制作部のフランク・ブルトン氏とお話がしたいのですが」と告げた。「ちょっと待ってください」彼は待たされた。それはきっとわずかな時間だったのだろうが、その間もかかっている膨大な額の国際電話料金のことを考えると気が気ではなく、ずいぶん長い時間のように感じた。
誰かが電話を取り、「プロップ制作部です」と言った。彼は興奮した。彼はスタジオの内線で回されたのだ。ここの誰かが求める答えを知っている!
「私は(MK氏の本名)と言います。カリフォルニアからかけています。フランク・ブルトン氏とお話がしたいのですが」
相手は、「彼のアシスタントのピーター・ハンコック(Peter Hancock)ならいるけど?」と答えた。なんということだろう、フランクは不在だった。しかしMK氏は「お願いします」と言った。もう支払うことが出来ないであろう額の国際電話料金を抱えながら。電話口の男はテーブルか何かに受話器を置き、遠くの方から
「ピーター!ルーカスフィルムの誰かがフランクに電話をかけてきてるぜ!」という声が聞こえてきた。
MK氏の心臓が止まった。今、なんて言った!?俺はそんなこと一言も言ってないぞ!
電話口の男は、MK氏がアメリカ人で、カリフォルニアからかけてきたということだけで、ルーカスフィルムの人間であると誤解したのだ。
「もしもし?ピーター・ハンコックですけど、僕でよければご用を伺いますが?」
MK氏の心臓は早鐘のように打ち鳴らされ、いまにも爆発しそうだった。
「はい、私はルークのライトセイバーを作ろうとしているんです。グラフレックスのフラッシュガンは用意していますが、他のパーツのことがわかりません……」
「あ、大丈夫ですよ。他のパーツは……」
MK氏はくらくらして死にそうだった。彼はいまルーカスフィルムの人間とライトセイバーやESBやベイダーやオビ=ワンのことについて話をしているのだ!
ピーターは言った。「もしルークのセイバーを作るだけだったら、僕がパーツを送りますよ。ボーイング747に乗っけりゃ明日には届くでしょう」
1980年のことである。Fedexなんかもちろん無い時代の話だ。MK氏は翌日配達便のことなんか知らなかった。彼は慎重に会話を進めた。「それは大変うれしいですが、でも料金はどのくらいかかりますか?」「だいたい400ポンドですね」 それは$700に相当した。
しかしMK氏は答えた。「OK」
「じゃ、どこに送ったらいいか、アドレスを教えてください」
翌日、彼の元に電話がかかってきた。電話の女性はルーカスフィルムの者だと名乗り、
「あなたは誰?」と言った。ゲームは終わったのだ。
MK氏はライトセイバーを作ろうとしている1ファンだと正直に言った。彼女は「どうしてピーターにルーカスフィルムの者だなんて嘘をついたの?」と彼を問いつめた。MK氏は事の次第を語り、謝った。また、ピーターに迷惑がかかっていないことを願った。
その夜、彼はピーターにもう一度電話をかけた。ピーターは当然、非常に不機嫌だった。「なんでルーカスフィルムからかけてるなんて言ったんだ?」MK氏は弁解し、最初に電話を取った人が誤解したんだと言った。ピーターは「全部パーツを梱包した後に、ある者が送り先の住所を見て、ルーカスフィルムはバーバンクなんかに事務所は持っていないことに気づいたんだ」
MK氏は誠意を持って謝った。
ピーターは許してくれた。「いや、いいよ。もうするなよ」
しかし、MK氏は、ピーターにパーツを送ってもらう必要はなかったのだ。彼はそれらのパーツがなんであるかを知った。Dリングアセンブリー、計算機のレンズ、グリップ……1980年当時、それらは比較的容易に手に入った。48時間以内には全てが彼の手に揃った。
長い話だったが、このMK氏の物語が全てRPFに書き込まれるまでに実に7日間の時間が費やされたことを思えば、今あなた達が味わっている疲れなどわずかなものだろう。MK氏はこれらのエピソードを少しずつ書き込み、毎日実にいいところで「引いて」いたのだから。その間RPFメンバーは、「さっさと続きを書いてくれ!」という叫びをみんなで書き込みまくっていた。
話をグリップに戻そう。MK氏は少しずつ、ピーター・ハンコックから聞いたというその部品の素性を語り始めた。それは車のワイパーではないこと。金属製であること。そして7日目の書き込みで答えが明かされた。
「それは古い戸棚の扉のレールである」(They are quite simply t-track for
doors on old cupboards.)
と。 2枚の扉をスライドさせるためのT字状のレールなのだと。ピーターは「グリップは金属製である」と確かに言ったそうなのだ。
そしてこれらがその時MK氏が投稿した、1980年当時彼が制作したルークセイバーである。 ごらんのようなTトラックと呼ばれる戸棚のレールが用いられている。バブルレンズがクランプに装着されているが、DリングブラケットはESBのlinhof(kobold)のものに似ている。既にESBは公開されていたので、混同したのではないだろうか。 |
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しかしMK氏の話を鵜呑みにすることは出来ない。MK氏はRPFにおいては新人で、セイバーのディテールに関して、他のメンバーのように病的な眼力を発揮するまでには至っていない。例えばANHとESBのルークセイバーの形状の差について認識していなかったし、スタントセイバーとのディテールの差についても思いを巡らせたわけではないようだ。
この物語はESB公開後の話だが、ピーター・ハンコック氏は、ANHから制作に参加していたそうだ。ESBルークのグリップは、ゴム、あるいは軟質プラスチック製であることがほぼ確定している(実際にランチバージョンを目にしたLonepigeon氏の証言による)が、ピーター氏がANHルークの話をしていたとすれば筋は通っている。
E-11ブラスターverA2と、銃身のパーツ (photos from the Parts of Starwars and lonepigeon) |
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ANHでは金属製である、という仮説が成り立つが、そこにはまだなお疑問が残る。
ANHストームトルーパーの使っているBlastec E-11ブラスターの銃身には、ANHルークおよびベイダーに使われているグリップとそっくりなパーツが装着されている。このパーツは、ベースとなったイギリス製スターリングMk4/L2A3短機関銃の放熱口に曲げられてつっこまれているのだ。このパーツが金属製だとすれば、そのT字状の形状からすると、このように曲げるのは大変困難であるし、各E-11ブラスターの写真を比較する限り、このパーツは樹脂製の可能性が高い。当然同じ映画の小道具であるから、違うプロップで同じパーツが使われていることは多い。たとえばESBルークのDリングアセンブリーだが、これはドロイド・コーラーと呼ばれるドロイドとの通信機に使われている、linhof(kobold)フラッシュガンのブラケットであったりする。
また、金属製であったとしたら、グリップとしてはかなり不適当で、持ったら手のひらが痛いであろう事は想像に難くない。
樹脂製か金属製か、という話は置いておいて、グリップが戸棚のレール(Tトラック)から出来ている、という説は確かに理にかなっている。実際のこのMK氏の書き込みの後、各地でそのままグリップに使えそうなTトラックが発見されている。
また、議論も、ワイパーかTトラックか、というよりは、樹脂か金属か、といった内容にシフトしている。
そんなわけで、MK氏の話は大変おもしろく、また信憑性もそれなりに高いものであるが、ANHルークのグリップが金属製であると確定したわけではない。がしかし、可能性の一つとして頭に入れておくことは必要だろう。