MasterReplicasという会社について

2003/04/12 by ぴろいし

2003年3月31日、米ebayにおいて、あるオークションがスタートした。出品者はMasterReplicas(以下MR)。そして出品物は、自社の生産物であるAOTCヨーダ・ライトセイバーレプリカのプロトタイプセットだった。

 ここにオークション終了時のページが保存してあるので参照いただきたい。

 ごらんのように、落札金額は6599.99米ドル、当時の相場にして80万円という高額だった。このオークション、開始価格こそ1ドルだが、リザーブプライス(最低落札価格)は5500ドルに設定されていた。つまり、MR自身が、この品物に「5500ドル以上」という定価をつけたものだと言い換えることが出来る。
(しかも当初No reserveで出品された物を、あとでリザーブをつけて出品し直した)

 正直な私の感想を言おう。あきれた。

 このプロトタイプセットは、最初の手作業による削り出しのプロトタイプ、各パーツの型を取るための樹脂製の雛形、そして作業する人が参考にするための量産型第一号(製品版と実質変わらない)の3本と、COA(certificate of authenticity 、証明書)およびディプレイケースのセットだ。これらのプロトタイプは、MasterReplicas社の製品を作り出すために用いられたものであり、スター・ウォーズ本編の撮影には全く関わりがない。また、AOTCヨーダの項目でも解説してあるように、映画におけるAOTCヨーダ・ライトセイバーは、全てCGIによる映像であり、実物プロップは存在しない。つまり、MRのAOTCヨーダセイバーは公式に認められた唯一の造形物とも言えるのだ。にも関わらず、そのディテールは映像で見られるヨーダセイバーとは異なるところが散見される。公式アイテムとしてルーカスフィルムよりライセンスを受け、映画に用いられたデータの提供を受け、またそれを元に寸分違わぬレプリカを製造することを売り文句にしているにも関わらず、だ。
 これらの3本のセイバーは、製品を作るためなら必ず作らねばならない副産物であり、またその出来は不正確で、お金を払って買ったマニアを満足させる物ではない。それをいかにもたいした物のように見せかけ、信じがたい高額をつけてオークションにかけるMRの姿勢には疑問を感じるし、なによりセコい

 以前のコラムにも書いたように、MasterReplicas社の業務内容、製品のクオリティについては、最初の製品であるROTJルークが発売されたときから首をひねることが多かった。検証すると、言っていることにウソが多く、信用できないのだ。品物の出来自体も、セイバーマニアを完全に納得させる物ではなく、本物とのディテール違いや理解に苦しむ変更が見受けられる。そして目立つのは消費者から金を搾り取ろうとするための手練手管を尽くす姿だ。

 ここにあるのは、MRが2002年冬に発売した、自社製品製作に用いたブループリントの複製品である。このほかにハン=ソロのブラスターの物もあり、3枚セットで$199、各$69で売り出された。

 こんな紙ぺら一枚を8000円以上もの値段で売り出すためにはそれなりの理由がいる。これらの品にはすべてシリアルナンバーが振られており、MRお得意のCOA付き、そして印刷にはリトグラフという手法が用いられている。

 リトグラフと言ってもその手法は数多くの種類があるため、一口に説明することは難しい。共通して言えることは、版画の一種であり、色の再現のために非常に多くの版を用いた印刷方法であるということだ。普通は、通常の4色製版技術では色が完全に再現できない美術品などの複製のために用いられる高級な技術である。多くは職人によって手作業で精密な版が作られるが、最近はデジタルリトグラフなどの進歩も著しい。

 結論から言うと、こんな図面の印刷に用いるべき手法ではない。つまり「リトグラフ」といういかにも高級そうな要素を付け加え、高価な値段で売りつけようとしているだけにしか見えないのだ。シリアルナンバーその他を含め、全てはMRのハッタリにしかすぎず、真に消費者のためを思った企業活動とはとても思えない。

 無論、価値観とは個人によって異なるものだ。
 現に今回のオークションは、リザーブを遙かに超える額で終了しているし、「オフィシャル」「限定」「シリアルナンバー」「証明書」といった付加された要素に価値を感じる人もいるだろう。
 セイバーに関する情熱は十人十色で、誰にもそれぞれを責めることは出来ない。

 だが私は、踊るなら自分の力で踊りたい。踊らさせる踊りが、独りよがりで醜く、俗受けのするものであるならなおさらだ。